この1−2年でずいぶん変わってきたことがあります。それは、自分にフィットする音楽、また踊り口をわずかながら見つけ始めたということです。
ダンスを初めたばかりの頃は、ただただ、何でもやってみたくて(いろいろな衣装も着てみたくて)、新しい言語の語彙を増やすかのごとく、オリエンタルもドラムソロもポップスも、フォークロアも剣もウィングもロマも。。。。ととにかく何でもやるのが楽しく、また様々な良い材料を最初から学ぶ機会に恵まれました。
実はベリーダンスを始める前は、全くアラブ音楽になじみがなく、お教室で色々な教材をこなす中で、アラブ音楽を学び、聞く耳を育て、有名な曲に触れ、さまざまな音楽家や別のアレンジなども聞きながら、自分なりのアラブ音楽の耳を育ててきました。
アメリカに来て最初に難しいと思ったのは、日本とアメリカではダンサーさんが使う曲が少し異なることでした。アメリカ人の忍耐力に合わせて(?)、全体的に曲は短めにまとめられ、明るいポップスなどが入らないとパーティーなどではうけず、なかなかその音楽の選び方や組み合わせに馴染むことが難しく、仕事で踊るものと自分がゲストで踊るときの音楽の選び方も、いろいろと試行錯誤してきました。またトゥループで踊る機会に恵まれ、ここでは好き嫌いに関わらず与えられたものを期日内に仕上げアウトプットとして出すことが要求され、相変わらず音楽のセレクションや組み合わせに完全に馴染むことはなく、ただ仕事としてやりすごすことに重点をおく必要があったり、あるいは別ジャンル ー いままでやったことがなかったサンバやジャズなどの入ったフュージョン ー で息抜き、発散をしたりしてきました。
たぶん自分がフィットするもの、これだというものがなかなか見つからないでいたように思います。
実は、私は歌詞の入った ”どアラブ演歌” のような曲が最初から大好きで、でもそんなジャンルを踊る人はなかなかいません(しかも難しい)。普通に綺麗なオリエンタルを踊らないといけないのではないかというダンサーとしての常識が働いたり、どんなものが自分に向くのか先生にうかがってみたり、いろいろと悩んできました。先生方からはだいたい ”品のあるクラシック” ”平和な微笑みが出てくるようなもの” を薦められることが多く、でも”品のあるクラシック”ばかりでも少しつまらなくなってしまい、そんなときに限って、サンバ・フュージョンやジャパン・フュージョン、あるいはちょっとコミカルなポップスやシャービーで、意識を別へ向けて来たように思います。
この悩みをひとつの方向へ導いてくださったのが、大御所先生とサンディエゴにいらっしゃるシニアのダンサーさんの言葉でした。サンディエゴのシニアダンサーさんは
”私はずっとエジプト人に見える事だけ考えて踊りを続けてきたわよ”
とメールに書いてきてくださったのです。確かに私もずっとエジプシャンを中心に踊ってきていますが、”エジプト人に見える” ことを意識したことは全くありませんでした。
そして私が大御所先生に初めてお会いした2010年、先生が私にお話されたのは、”TAMAMI は感情表現ができるダンサーだよ”
これには本当にびっくりしました。 アメリカ人のハリウッドやラスベガスに影響された華やかなダンサーさんの中、私は表情に乏しいダンサーだと思い込んでいたからです。そして先生は
”君は余計なことはしなくていい、 このままやっていればいい”とおっしゃり、私が日本で習っていた先生はどんな人だったのか? と根ほり葉ほり聞かれたのでした。
このお二人の言葉は、私が元々好きだった ”どアラブ演歌” に導いていくことになりました。歌ぶりなんて、歌詞を知らなければ踊れません。ましてや、歌詞を知っていても、それを理解してくださるお客さんがいなければなかなか踊りづらいものですが、私はこれらの言葉と大御所先生の指導に支えられ、果敢にも(無謀にも!?)歌詞のたっぷり入った作品を踊っていくようになりました。そして上級者でなければ踊れないという Oum Kalthoum を踊り始めたのです。
最初に踊ったときはもちろんびくびくでした。第1回目、レバノン系のレストランで踊り、レバノン人のマネージャーさんが、足を止めて私の踊りを9分近く見つめていました。その日は他のシニアダンサーさんからも ”すごくよかった。感動した〜”とメールをいただきました。さて2回目のチャレンジは、何も起こらず、そして3回目、エジプト人だと名乗るお客様から、ダンス終了後、”何年ぐらい踊っているんですか? 故郷を思い出したよ〜”と名刺を求められました。え? 私の踊りでエジプトを思い出してくださったの???? そして4回目、普段よく見に来てくださるイスラエル人のお客様が、終わった後、”Tamami は外国人だからなかなかレストランオーナーと直接交渉しずらいと思うから、XXXX にあるレストランがレギュラー・ダンサーを探しているので、僕が推薦しようと思うんだけど、どうだろう?”とお話をいただきました。特にレストランでの仕事を探していない私は ” XXXX は少し遠いので、うちの近くにお仕事があったときにまたよろしくお願いいたします”と答えたところ、一緒に座っていた他のダンサーさん方がまず、彼のこの素敵なお申し出に ”かっこいい〜、男の中の男!”という反応。そしてあっさり断る私を目を丸くして見ていました。 そして5回目、私はお客様の中に、中東系のおじさまが座っていらっしゃるのを見つけると、その人に向けて踊るような気持ちで踊ってみました。オレンジカウンティでのショウでしたが、私の尊敬する顔見知りのダンサーさんが見に来てくださり、”あの日のショウで1番よかった演目” と言ってくださりこれまた驚き。そして6回目、イスラエル人の常連さん、そしてレバノン人のタブラプレイヤーが、うれしそうに微笑みながら見ていて
”アイワ!”
そんな風に時を重ね、次第にお客様の中にいらっしゃる中東の方向けに踊るようになってきた自分を見つけました。95%のお客様はわからなくてもいい、でも3%のアラビア語がわかる人、もしくはシニアダンサーで本当にエジプシャンを目指している方々が、うれしそうに見てくださると、私もうれしくなり、彼らから良いフィードバックをいただけると、なぜか報われた気持ちになります。
これは誰も気がつかない、全くもって自分の中の、かなり”おたく”な 単なる”自己満足”の世界ですが、それでも長く自分が抱えていた、自分の中でなかなかフィットしない感覚を少し抜け出した気がしています。
いま練習しているのは、とてもシンプルな振付の Oum Kalthoum。
技術的に一見簡単に見えるかもしれませんが、実は歌詞と感情のタイミング、振付には、民俗が持つ独特の微妙なハーモニーが盛り込まれていて、1年以上、難しすぎて自分にはできないと思い、手つかずになっていた作品です。
しばらくまたこれを踊ってみます。
TAMAMI